Foundry/Hardhat環境におけるトランザクション送信時の`ProviderError`および`gas required exceeds allowance`解決策
はじめに
Web3開発において、スマートコントラクトのデプロイやトランザクションの送信は日常的に行われる操作です。しかし、このプロセス中にProviderError
やgas required exceeds allowance
といったエラーに遭遇することがあります。これらのエラーは、単一の原因に起因するものではなく、RPCエンドポイントの問題、ネットワーク設定の不整合、トランザクションの複雑性など、複数の要因が絡み合って発生する場合が少なくありません。本記事では、FoundryおよびHardhatを用いた開発環境において、これらの一般的ながら複雑なエラーが発生する状況と、その詳細な原因分析、そして具体的な解決策を複数提示いたします。これらの情報を参考に、開発プロセスの障害を迅速に解消し、安定したWeb3アプリケーション開発を進めていただくことを目的とします。
エラーの特定
FoundryまたはHardhatを使用し、Ethereum互換チェーン(テストネット、メインネット、あるいはローカル開発ネット)へスマートコントラクトをデプロイしたり、コントラクトの関数を呼び出すトランザクションを送信したりする際に、以下のようなエラーメッセージに遭遇することがあります。
具体的なエラーメッセージの例
これらのエラーは、コマンドラインインターフェース(CLI)やテスト実行時に出力されることが一般的です。
Error: ProviderError: Http response has empty body
Error: ProviderError: could not get block number (url="...", code=UNSUPPORTED_OPERATION, version=ethers/5.x.x)
Error: ProviderError: Failed to fetch
Error: ProviderError: The method "eth_sendRawTransaction" does not exist / is not available.
Error: transaction underpriced
Error: gas required exceeds allowance (0)
または、Foundryの場合、より詳細なスタックトレースと共に:
Error: (code: -32000, message: gas required exceeds allowance (0x0))
エラー発生時の開発環境情報
これらのエラーは、以下の環境要素の組み合わせによって発生する可能性があります。
- OS: macOS, Linux, Windows (WSLを含む)
- Node.js: v16.x, v18.x, v20.x (Hardhatの場合)
- npm/yarn/pnpm: 最新バージョン
- Foundry:
forge
,anvil
(バージョン例:foundry 0.2.0 (bxxxxxxxx 2023-xx-xxTxx:xx:xx.xxxxxxxZ)
) - Hardhat:
hardhat
(バージョン例:hardhat@2.x.x
) - ethers.js: v5.x.x, v6.x.x
- web3.js: v1.x.x, v4.x.x
- ターゲットネットワーク: Ethereum Mainnet, Sepolia, Goerli, Arbitrum, Optimism, Polygon, BNB ChainなどのRPCエンドポイント
- RPCプロバイダー: Alchemy, Infura, QuickNode, Ankr, GetBlockなど
- ローカルノード: Anvil, Hardhat Network, Geth, Erigon, Rethなど
原因の分析
提示されたエラーメッセージと状況から、以下のような根本的な原因が考えられます。複数の原因が複合的に作用している可能性もございます。
1. RPCエンドポイントの問題
- 過負荷またはレートリミット: 使用しているRPCエンドポイントが一時的に過負荷状態にあるか、設定されたリクエストレートリミットを超過している場合、
ProviderError: Http response has empty body
やFailed to fetch
などのエラーが発生します。無料プランのRPCプロバイダーで頻繁に発生し得ます。 - 接続不良: ネットワーク接続の問題、ファイアウォールの設定、あるいはRPCエンドポイント自体のダウンタイムにより、接続が確立できない場合に発生します。
- 非互換性または非対応メソッド: 特定のRPCプロバイダーやノード実装が、要求されたRPCメソッド(例:
eth_sendRawTransaction
)をサポートしていない場合、The method "eth_sendRawTransaction" does not exist
のようなエラーが発生します。特にFoundryのanvil
や特定のL2ノードで発生することがあります。 - ブロック同期の遅延: ローカルノードやRPCプロバイダーのノードがネットワークと完全に同期していない場合、最新のガス価格やNonceが取得できず、トランザクションの失敗につながることがあります。
2. ネットワーク設定の不整合
- Chain IDの不一致: トランザクション署名時に使用したChain IDが、実際に接続しているネットワークのChain IDと異なる場合、トランザクションがリジェクトされます。
- ガスパラメータの不適切さ:
gas required exceeds allowance
: これは、トランザクションが要求するガス量が、ブロックのガスリミット、アカウントの残高、または設定されたgasLimit
を上回っている場合に発生します。コントラクトの複雑性、初期化時の計算量、あるいはループ処理の多さなどが原因で、トランザクションが非常に多くのガスを消費する可能性があります。- EIP-1559パラメータの不適切さ: EIP-1559を実装しているネットワーク(Ethereumメインネットなど)では、
gasPrice
の代わりにmaxFeePerGas
とmaxPriorityFeePerGas
を使用します。これらの値が現在のネットワーク状況に対して低すぎる場合、トランザクションがブロックに取り込まれず、transaction underpriced
として扱われることがあります。 - 低すぎる
gasLimit
: トランザクションに必要な最低限のガス量を下回るgasLimit
を設定した場合、トランザクションは実行されずに失敗します。
3. ウォレットの残高不足
- トランザクションのガス代を支払うためのETHまたはネイティブトークンが、送信元アドレスに不足している場合、トランザクションは実行されません。これも
gas required exceeds allowance
の一因となり得ます。
4. トランザクションデータの不正または肥大化
- コントラクトのコンストラクタ引数や関数引数が不適切である、あるいはABIエンコーディングに問題がある場合、トランザクションの生成に失敗したり、ノードが処理できない不正なデータとして拒否したりすることがあります。
- 非常に大きなデータ(例: IPFSハッシュやbase64エンコードされた画像データなど)をオンチェーンに直接書き込む場合、トランザクションのガス使用量が大幅に増加し、ブロックのガスリミットを超える可能性があります。
5. ノードの実装差またはバグ
- Geth, Erigon, Reth, OpenEthereum(旧)などの異なるノード実装間には、RPCメソッドの挙動やトランザクション処理のロジックに微妙な違いがあることがあります。特定のノード実装でのみ発生するバグや、未対応の機能が原因である可能性も考えられます。
6. タイムアウト設定
- FoundryやHardhat、あるいは使用しているライブラリ(ethers.jsなど)の内部で設定されているRPCリクエストのタイムアウト値が、RPCプロバイダーの応答時間よりも短い場合、リクエストが完了する前にタイムアウトエラーとして処理されることがあります。
解決策
原因分析に基づき、以下の具体的なアプローチを試すことでエラーを解決できる可能性がございます。最も一般的な解決策から順に提示いたします。
1. RPCエンドポイントの確認と変更
最も一般的な原因の一つはRPCエンドポイントの問題です。
- RPCエンドポイントの変更: 現在使用しているRPCプロバイダーが不安定な場合、別のプロバイダー(例: AlchemyからInfuraへ)に切り替える、または有料プランを検討することで安定性が向上する場合があります。また、テストネットであれば、複数の無料RPCエンドポイントを試すことも有効です。
-
ローカルノードの利用: テストや開発時には、
anvil
(Foundry) やhardhat node
(Hardhat) といったローカルノードを使用することで、外部RPCへの依存を減らし、安定した環境を構築できます。```bash
Foundryの場合
anvil --chain-id 31337 --fork-url https://eth-sepolia.g.alchemy.com/v2/YOUR_ALCHEMY_KEY ```
```bash
Hardhatの場合
npx hardhat node --fork https://eth-sepolia.g.alchemy.com/v2/YOUR_ALCHEMY_KEY
`` * **Pingテストとステータス確認**: 使用しているRPCプロバイダーのステータスページを確認するか、
curl`コマンドなどでRPCエンドポイントへの疎通を確認します。bash curl -X POST -H "Content-Type: application/json" --data '{"jsonrpc":"2.0","method":"eth_blockNumber","params":[],"id":1}' YOUR_RPC_URL
応答がない、あるいはエラーが返る場合は、エンドポイント自体に問題がある可能性があります。
2. ネットワーク設定とガスパラメータの調整
gas required exceeds allowance
やtransaction underpriced
エラーの解決には、ガスパラメータの調整が不可欠です。
-
gasLimit
の明示的な設定: デフォルトのガス見積もりが不十分な場合、手動でgasLimit
を増やすことで解決することがあります。特に複雑なコントラクトや多くのストレージ操作を伴うトランザクションで有効です。-
Hardhatの場合:
hardhat.config.js
またはトランザクション送信時に指定します。```javascript // hardhat.config.js module.exports = { networks: { sepolia: { url: process.env.SEPOLIA_RPC_URL || "", accounts: process.env.PRIVATE_KEY !== undefined ? [process.env.PRIVATE_KEY] : [], gas: 5000000, // 例: gasLimitを500万に設定 gasPrice: 20000000000, // 20 Gwei (EIP-1559非対応ネットワークの場合) }, }, // ... };
// トランザクション送信時 await contract.myFunction({ gasLimit: 5000000 });
`` * **Foundryの場合**:
forge script`コマンドのオプションで指定します。bash forge script script/MyContract.s.sol:MyContractScript --rpc-url $SEPOLIA_RPC_URL --private-key $PRIVATE_KEY --broadcast -vvvv --gas-limit 5000000
あるいは、foundry.toml
でデフォルト値を設定することも可能です。```toml
foundry.toml
[rpc_endpoints] sepolia = "https://eth-sepolia.g.alchemy.com/v2/YOUR_ALCHEMY_KEY"
[networks] sepolia = { chain_id = 11155111, gas_limit = 5_000_000 } # gas_limitを500万に設定
`` * **EIP-1559ガスパラメータの調整**: EthereumメインネットやPolygon、ArbitrumなどのEIP-1559対応ネットワークでは、
maxFeePerGasと
maxPriorityFeePerGasを適切に設定します。これらの値が低すぎると、トランザクションが保留状態になったり、
transaction underpriced`エラーが発生したりします。 * 現在のネットワークのベースフィーと優先フィーを監視し、適切な値を設定します。Etherscanなどのブロックエクスプローラーや、RPCプロバイダーのAPIで推奨ガス値を取得できます。 * Hardhatの場合:javascript // トランザクション送信時 await contract.myFunction({ maxFeePerGas: ethers.utils.parseUnits('100', 'gwei'), // 例: 100 Gwei maxPriorityFeePerGas: ethers.utils.parseUnits('2', 'gwei'), // 例: 2 Gwei });
* Foundryの場合:```bash forge script script/MyContract.s.sol:MyContractScript --rpc-url $SEPOLIA_RPC_URL --private-key $PRIVATE_KEY --broadcast -vvvv --with-gas-price 100gwei --priority-gas-price 2gwei
または、Foundryでは自動ガス見積もりが強力なため、通常はデフォルトで十分ですが、必要に応じて手動設定
``
--with-gas-priceはEIP-1559対応ネットワークでは
maxFeePerGas`として解釈されることが多いです。
-
-
Chain ID
の確認: 環境変数や設定ファイルで指定されているChain IDが、接続先ネットワークのものと一致しているか確認します。
3. ウォレット残高の確認と資金追加
- トランザクションの送信元アドレスに、デプロイや関数呼び出しに必要なガス代分のETH(またはネイティブトークン)があることを確認します。特にテストネットでは、Faucetから資金を取得する必要があります。
-
ethers.js
やweb3.js
を使って残高を確認できます。javascript const provider = new ethers.providers.JsonRpcProvider(process.env.SEPOLIA_RPC_URL); const balance = await provider.getBalance(YOUR_ADDRESS); console.log(`Balance: ${ethers.utils.formatEther(balance)} ETH`);
4. トランザクションデータの最適化とデバッグ
- コントラクトの複雑性軽減:
gas required exceeds allowance
エラーが頻発する場合、スマートコントラクトのロジックを見直し、ガスの消費を抑える最適化を検討します。- ループ処理の回数を減らす。
- ストレージへの書き込み回数を最小限にする。
- 不要な
require
やrevert
条件を削除する。
- テスト環境での詳細なデバッグ: Foundryの
forge test -vvvv
やHardhatのconsole.log
、Hardhat Networkのスタックトレースを利用して、トランザクションがどのステップで失敗しているかを特定します。- Foundryでは、
forge test --gas-report
でガス消費量の詳細レポートを確認できます。 - Hardhatでは、テスト中に
console.log
を埋め込み、npx hardhat test
を実行することで、どの部分でガス消費が増えているかを確認できます。
- Foundryでは、
5. フレームワークとライブラリのバージョン確認
-
Foundry/Hardhatの最新化: フレームワークのバージョンが古い場合、最新のRPCプロトコルやノード実装との互換性の問題が発生することがあります。最新版にアップデートを試みます。
```bash
Foundryの場合
foundryup
Hardhatの場合
npm install --save-dev hardhat@latest
`` * **ethers.js/web3.jsのバージョン互換性**: 使用しているNode.jsのバージョンと、
ethers.jsや
web3.jsのバージョンが互換性を持っているか確認します。特に
ethers.js` v5とv6ではAPIに破壊的変更があるため注意が必要です。
6. キャッシュのクリア
-
稀に、HardhatやFoundryの内部キャッシュが原因で問題が発生することがあります。キャッシュをクリアして再試行します。
```bash
Hardhatの場合
npx hardhat clean rm -rf cache artifacts
Foundryの場合
forge clean ```
補足情報
- トランザクション監視ツールの活用: Etherescanなどのブロックエクスプローラーで、送信したトランザクションのステータス(保留中、失敗、成功)を監視することで、問題の切り分けに役立ちます。
pending
状態が長く続く場合は、ガス価格が低い、またはNonceが詰まっている可能性があります。 - ノードログの確認: ローカルでGethやErigonなどのフルノードを運用している場合、ノードのログを詳細に確認することで、より低レベルなエラー情報を得られることがあります。
- ドキュメント参照: 使用しているRPCプロバイダー、Foundry、Hardhat、ethers.jsの公式ドキュメントには、トラブルシューティングガイドや推奨設定が記載されていることが多いため、定期的に確認することをお勧めします。
まとめ
FoundryおよびHardhat環境におけるProviderError
やgas required exceeds allowance
は、Web3開発において避けられない課題の一つです。しかし、本記事で解説したようなRPCエンドポイントの確認、ネットワーク設定の調整、ガスパラメータの最適化、そして適切なデバッグ手法を用いることで、これらのエラーは多くの場合解決可能です。
エラーメッセージを注意深く読み解き、発生状況から考えられる原因を一つずつ検証していくアプローチが重要です。本記事が、皆様のWeb3開発におけるエラー解決の一助となれば幸いです。安定した開発環境を構築し、革新的な分散型アプリケーションの実現に向けて邁進されることを期待しております。